「遺言書に遺言執行者が指定されていたけど、何をする人なのかよく分からない」「自分が遺言執行者に指定されたけど、やりたくない」など、遺言執行者についてお困りではありませんか?
本記事では、遺言執行者について弁護士が説明します。
1 遺言執行者とは
遺言執行者(遺言執行人とも呼びます。以下では、遺言執行者で統一しています。)とは、遺言内容を実現するための各種手続きを行う人のことを言います。
相続のための各種手続きは多岐にわたり、相続人を調査や相続財産の調査、銀行口座の解約など様々なものがあります。
2 遺言執行者になるための条件
遺言執行者になるための条件は基本的にはなく、例外的に未成年者と破産者を除いて、どんな人でも遺言執行者になることができます(民法1009条)。特別な資格は必要ありません。
遺言執行者は、遺言書で特定の人物が指定されるか、家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てにより選任されます(民法1006条、1010条)。一般的には相続人のうちの誰か、もしくは、弁護士などの専門家がなることが多いです。
3 遺言執行者の人数
遺言執行者の人数には制限がありません。そのため、遺言書で複数人の遺言執行者が指定されることがあります。その場合、各遺言執行者の職務が定められているか否かで遺言執行方法が変わってきます。
⑴ 遺言で職務が定められている場合
複数の遺言執行者が指定されていて、その職務内容もそれぞれ定められている場合は、その定められた内容に従う必要があります。
⑵ 遺言で職務が定められていない場合
複数の遺言執行者が指定されているものの、その職務内容が定められていない場合があります。この場合は、それぞれの職務の執行は遺言執行者の過半数で決めることになります(民法1017条)。
例えば、預貯金の解約を遺言執行者Aが行いたい場合は、遺言執行者の過半数の同意が必要になります。
⑶ 保存行為
例外的に保存行為は、各遺言執行者が単独で行うことができます。保存行為とは、財産の現状を維持する行為のことを言います。例えば、建物の修繕や不動産の保存登記、腐敗しやすい物の売却などがこれにあたります。
つまり、保存行為であれば遺言執行者が、遺言執行者の過半数で決定する必要なく、自分一人の判断で行うことが可能です。
4 遺言執行者の職務
遺言執行者は具体的にどのようなことを行うのでしょうか。以下では、遺言執行者の代表的な職務についてみていきます。
⑴ 遺言執行者就任の通知
まず、遺言執行者に指定もしくは選任されたことを、相続人に対して通知します。遺言執行者に就任したことを通知する義務が法律上あるわけではありませんが、後々のトラブルを避けるために、連絡を行いましょう。
⑵ 相続人の調査
相続人の調査を行います。
被相続人(=亡くなった人)の出生から死亡までの戸籍を全て集めて、その内容から、誰が相続人になるのか、その人数は何人か、連絡先はどこか等を確認します。
⑶ 財産の調査
被相続人の財産の調査を行います。
① 財産目録がある場合
遺言書があり、それに財産目録が添付されている場合があります。財産目録とは、相続人の財産を一覧にしたものです。財産目録がある場合は、それを元に、本当にその財産があるのか、財産の記入漏れがないのかなどを調査します。
② 財産目録がない場合
遺言書はあるけれど財産目録が添付されていない、もしくは、遺言書自体がない場合があります。そのような場合は、預貯金や不動産などの財産があるのかを一から調べる必要があります。具体的な調査方法は、別の記事で詳しく説明しているので、そちらをご参照ください。
⑷ 各種手続き
財産の種類に応じて手続きを行う必要があります。以下では主な手続きについて紹介します。
① 預貯金
(ⅰ)財産に預貯金がある場合、まず、預貯金のある金融機関に、遺言執行者に就任したことを通知します。遺言執行者がいることを通知しておくことで、相続人が勝手に預貯金を引き出したり、解約したりするのを防ぐことができます。
その後、通帳や印鑑を管理している方から、それらを預かり、管理を行います。さらに、その金融機関で残高証明書などを発行してもらうか、記帳を行い、財産額を調査します。この調査は、口座のある全ての金融機関に対して行う必要があります。
(ⅱ)すべての金融機関での調査が終了したら、預貯金の口座を解約します。解約することで残高が現金化されるので、その現金を各相続分に従って、各相続人に送金しましょう。このとき、現金を手渡しするよりも、金融機関を通じて、それぞれに送金する方法をおすすめします。送金すると履歴が残るので、のちのトラブルを予防することができるからです。
② 不動産
(ⅰ)財産に不動産が含まれていることがあります。この場合、不動産の名義変更が必要になります。
不動産の最新の登記事項証明書を取り寄せ、利害関係を調査します。その不動産に担保や抵当がついていないか、賃借されていないかなどの確認するためです。
(ⅱ)遺言書に不動産の相続人が指定されている場合は、その指定された相続人が単独で名義変更の登記申請を行うことができます。この場合、遺言執行者に名義変更の手続きを行う義務はありません。しかし、相続人が登記申請を確実に行うとも限りません。登記申請をきちんと行ったのか、相続人に確認しましょう。
遺言書で不動産の相続人が指定されていない場合、遺産分割協議で、誰がそれを相続するのかを決めます。相続する人が決定したら、登記申請を行いましょう。
⑸ 財産目録の作成
財産の調査が終了したら、それを一覧にまとめて、財産目録を作成し、相続人に交付します。財産目録の作成と、相続人への交付は、遺言執行者の法律上の義務とされています(民法1101条)。必ず行いましょう。
⑹ 職務終了の通知
全ての手続が終了したら、各相続人に職務終了通知を書面で行うことをおすすめします。これは、法律上の義務ではありませんが、後々のトラブルを防止するために行っておいたほうが安心です。
以上が、遺言執行者の主な職務になります。
5 遺言執行者の辞退の可否
遺言書で遺言執行者に指定されていたが、就任したくないという場合もあります。正式に遺言執行者に選任される前であれば、自由に辞退することが可能です。裁判所の許可等は必要ありません。
ただし、遺言執行者の就任を辞退したことを、書面で全相続人に通知するのが良いとされています。辞退するための特別な形式はないので、口頭や電話でその旨を伝えても問題はありませんが、後に「辞退の話は聞いてない」などとトラブルの原因になりかねません。後のトラブルを避けるためにも、書面で辞任の通知を行いましょう。
6 遺言執行者の解任の可否
遺言執行者が指定されているが、何らかの理由で解任したいという方がいらっしゃるかもしれません。そのような場合、遺言執行者を解任することができる可能性があります。
民法1019条1項は、「遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。」と規定しています。つまり、遺言執行者が「任務を怠ったとき」または「その他正当な事由があるとき」は、相続人が家庭裁判所に解任の請求をすることで解任することができます。
⑴ 任務を怠ったとき
民法1019条の「任務を怠ったとき」とは、遺言執行者がその任務を一切行わない、又は、一部を行わない場合のことを指します。具体的には以下のようなケースが挙げられます。
・相続人や遺産の調査を行わない
・財産目録を作成しない
・相続人が、財産目録の作成を公証人と行うよう請求したが、それを行わない
・相続人が事務処理状況の報告を求めたが、それを行わない
⑵ その他正当な事由があるとき
民法1019条の「その他正当な事由があるとき」とは、以下のような場合だと考えられています。
・遺言執行者が病気などにより長期間、遺言執行ができない状態にある場合
・遺言執行者が遠隔地へ引っ越した場合
・特定の相続人の利益のために行動した場合
・相続財産を不正に使い込んでいる場合
7 遺言執行者の辞任の可否
遺言執行者に就任したけれども、後から辞任することはできるのでしょうか?
遺言執行者は正当な理由がある場合、家庭裁判所に許可を得ることで辞任することができます(民法1019条2項)。「正当な理由」とは、以下の場合であると考えられています。
・病気などで、遺言執行ができない状況になった場合
・仕事で長期間の出張に行くことになった場合
・仕事が多忙な場合
ただし、これらに該当すれば必ず辞任が認められるというわけではありません。家庭裁判所が相続に関する状況を総合的に考慮して、辞任を許可するか否かを決定するからです。
遺言執行者は正当な理由があれば辞任できるとはいえ、その手続は非常に面倒です。安易に就任せず、遺言執行者の職務をしっかりと確認した上で、就任するか否かを決めましょう。職務をやり遂げる自信がない場合は、遠慮せずに、事前に就任を辞退することをおすすめします。
8 遺言執行者の復任権
遺言執行者を辞任せずに、その職務を第三者に委任することができます(民法1016条1項)。これを復任と言います。
⑴ 包括的に委任する場合
遺言執行者の職務を包括的に第三者に委任することができます。実際には弁護士等の専門家に委任することが多いです。
復任するにあたって、他の相続人の同意は一切不要です。ただし、復任しても、遺言執行者であることにかわりはありません。復任した第三者の職務に何らかの問題があった場合、その人物に復任した責任を問われる可能性があることに注意が必要です。
⑵ 一部の行為だけを委任する場合
遺言執行者の職務の一部の行為を第三者に委任することも可能です。一部の行為とは、預貯金に関する手続きだけ、登記手続きだけ、などの個別具体的な行為のことです。
このような場合も、復任するにあたって他の相続人の同意は必要ありません。ただし、遺言執行者のままであること、責任を問われる可能性があることも忘れてはいけません。
9 おわりに
相続は非常にトラブルが多いです。また、親族間での話し合いになるため、感情的になりやすく、長引き、こじれやすいものです。場合によっては複雑な手続きも必要になります。
相続で困ったときは、自分たちで解決しようとせず、弁護士等の専門家に相談しましょう。
記事の監修者:弁護士 川島孝之
アロウズ法律事務所の代表弁護士川島孝之です。
これまで多くの相続事件を手掛けてきました。職人としての腕と、サービス業としての親身な対応を最高水準で両立させることをモットーとしています。