「自分の死後のために遺書を書いておきたい」「もし家族が亡くなって、遺書が見つかったらどうすればいいのだろう」という方がいらっしゃるかもしれません。本記事では、遺言書の基本について弁護士が説明します。

1 遺書と遺言書の違い

一般的には、自分の死後のために書き残した文書のことを遺書と呼ぶことが多いかと思います。しかし、この遺書という言葉は法律用語ではありません。遺書のことを、法律用語で正式には、遺言書(いごんしょ)と呼びます。どちらの言い方でも、意味はほぼ同じなので、呼び方について神経質に気にする必要はありません。本記事では以下、遺言書で統一しています。

2 遺言書作成ができる人物

遺言書を作成するためには、遺言能力、つまり、遺言をすることができる能力が必要になります。

(1)遺言能力

遺言能力とは、正確には、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足りる意思能力のことを指します。遺言作成時に、遺言能力のなければ、その遺言は無効になります(民法963条)。

遺言能力の有無の判断要素は複数あり、最終的にはそれらを総合考慮して判断されます。

そのため、認知症などを患っている人などが作成した場合、無効と判断されることがあります。

(2)遺言作成者が15歳以上であること

遺言作成の制限として、年齢が15歳以上である必要があります(民法961条)。そのため、14歳以下の人物が遺言を作成しても、それは無効となります。

なお、遺言作成可能年齢に上限はありません。

3 遺言の種類

遺言とは、自分の死後に、自分の財産をどのように処分するのかを指定する言葉のことを言います。これを書面にまとめたものを遺言書です。遺言には3つの種類があります。

(1)自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者が、全ての文章、日付及び氏名を自署して、さらに押印した遺言書のことです(民法968条1項)。これは、全て自分の手で書くため、遺書の存在自体を秘密にすることができ、費用もかかりません。しかし、存在を秘密にできるが故に、遺言書が発見されなかったり、遺言書の偽造を疑われたりすることがあります。

(2)秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、遺言者が作成した遺言書の存在を公証役場で記録する遺言書のことです(民法970条)。

秘密証書遺言を作成するためには、まず、遺言者は遺言書を作成し封筒に入れて封印します。その封印した遺言書を公証役場に持っていきます。

次に、公証役場で、公証人と証人2人の前に遺言書を提出し、それが自分の遺言書であることと、氏名住所を申述します。

最後に、公証人がその遺言書に、提出した日付と遺言の申述を記載し、公証人・証人・遺言作成者本人が署名押印して、完成です。

秘密証書遺言では、遺言書の内容を他の誰にも知られずにすむというメリットがあります。しかし、デメリットとして、作成手数料がかかること、証人以外の人物が遺言書の存在を知らず、遺言書が発見されないといったことがあります。そのため、一般的にはあまり利用されていません。

(3)公正証書遺言

公正証書遺言とは、公証人が遺言者の残したい内容を書面にして作成する遺言書のことです(民法969条)。

公正証書遺言を作成するためには、まず、公証役場で、遺言作成者が遺言の趣旨を公証人に口述で伝えます。この際、証人2人の立ち会いが必要です。公証人は、その内容を聞き取り、書面にします。

次に、公証人が、書面にした内容を遺言者作成者と証人に読み聞かせ、内容を確認し、遺言作成者と証人がそれぞれ署名押印します。

最後に、公証人が手続に則った方式で作成した旨を付記し、署名押印して完成です。

公正証書遺言は、公証人という公的な資格を有する者が作成する文書です。公証人には、元裁判官や元検察官が多く、法律のプロによる遺言作成になります。そのため、遺言の内容が法律的に有効であり、記載すべき事項に漏れがないといった点で安心して遺言書作成ができます。

一方で、デメリットとして、遺産の金額や受贈者(財産を譲り受ける人物)の人数によって、遺言作成に手数料が変わるということが挙げられます。遺産額が大きくなればなるほど手数料も高額になるため、事前に手数料がどの程度になるかの確認をしておくことも必要です。

4 遺言書の作成方法

(1) 自筆証書遺言の場合

自筆証書遺言の場合、全文手書きすることが原則で、パソコンで作成することはできません。ただし、例外として、財産目録はパソコンで作成することができます(民法968条2項)

財産目録とは、不動産や預貯金などの遺言作成者の相続財産を列挙し、まとめたものです。遺言書自体に財産目録を書くのではなく、別紙に作成し、遺言書に添付する必要があります。つまり、全文手書きの遺言書と、パソコンで作成した財産目録をセットにする形になります。もちろん財産目録を手書きすることも可能です。

(2) 秘密証書遺言の場合

秘密証書遺言はパソコンでの作成ができます。もちろん手書きすることもできますし、他人による代筆でも有効です。ただし、署名は自筆であること、押印が必要であることに注意しましょう。

(3) 公正証書遺言の場合

公正証書遺言の場合、自分で遺言書を作成する必要はありません。しかし、公証人に遺言の内容を口頭で伝える必要があります。そのため、どのような内容にしたいのかをあらかじめ考えて、それをまとめたメモを用意しておくと、スムーズに進めやすくなります。

5 遺言書の記載事項

遺言書によって定めることができる事項には、法的拘束力のある法定遺言事項と、法的拘束力のない法定外事項(付言事項)があります。

(1) 法定遺言事項

遺言として法的拘束力が認められる事項は、民法やその他の法律で定められている事項に限られており、これを法定遺言事項といいます。法定遺言事項には大きく分けて5つに分類され、以下のような事項があります。

①相続に関する法定遺言事項

(ⅰ)相続分の指定(民法902条)

(ⅱ)遺産分割方法の指定(民法908条)

(ⅲ)遺産分割の禁止(民法908条)

(ⅳ)遺産分割における担保責任に関する別段の意思表示(民法914条)

(ⅴ)遺留分侵害額請求方法の定め(民法1047条1項2号)

(ⅵ)負担付遺贈の目的の価格減少についての指示(民法1003条但書)

(ⅷ)法定相続人の廃除および廃除の取り消し(民法893条、894条2項)

(Ⅸ)特別受益の持ち直しの免除(民法903条3項)

②財産の処分に関する法定遺言事項

(ⅰ)遺贈(民法964条など)

(ⅱ)一般財団法人設立のための寄付行為(一般法人法152条2項)

(ⅲ)信託の設定(信託法2条、3条2号)

③身分に関する法定遺言事項

(ⅰ)遺言認知

(ⅱ)未成年後見人の指定(民法839条)

(ⅲ)未成年後見監督人の指定(民法848条)

(ⅳ)財産管理のみの未成年後見人の指定(民法839条2項)

④遺言執行に関する法定遺言事項

遺言執行者の指定及び指定の委託(民法1006条1項)

⑤その他の法定遺言事項

(ⅰ)祭祀の承継者の指定(民法897条1項)

(ⅱ)生命保険の死亡保険金の受取人の指定、変更(保険法44条、73条)

(2) 法定外事項(付言事項)

法定外事項(付言事項)とは、法定遺言事項以外の内容のことで、前述のような事項以外のものは、たとえ遺言書に記載しても法的拘束力がありません。

しかし、法的拘束力がないだけで、書くことが無意味というわけではありません。法定外事項(付言事項)は、原則として、自由に作成することができます。家族に対する感謝の気持ちや、伝えたいメッセージなどを書くことが多いようです。そのため、たとえ遺産分割内容が不平等であっても、付言事項で遺言作成者の想いを伝えることで、相続人の不満が解消され、トラブルを回避することができる場合があります。また、葬儀や納骨の方法を記載しておくことで、遺言作成者の意思が明確になり、相続人がそれを尊重してくれることもあります。

6 遺言書が無効になるケース

遺言書が無効になるケースがあります。無効になるということは、せっかく用意した遺言書に法的効力が発生することなく、無駄になってしまうということです。特に、自筆証書遺言は不備が発生し無効になりやすい遺言です。無効にならないように以下の点に気をつけましょう。

(1)自筆証書遺言

自筆証書遺言が無効になるケースとして以下の場合が挙げられます。

・遺言作成日の記載がない

・実際に遺言が作成された日と異なる日付が記載されている

・遺言の一部または全部がパソコンや他人による代筆で作成されている

・遺言作成者本人の署名押印がない、または、他人の署名がされている

・加筆・修正の形式が間違っている

特に、作成日や署名押印の漏れ、加筆・修正の形式間違いはよくあるパターンです。

よく気をつけましょう。

(2)秘密証書遺言

秘密証書遺言が無効になるケースは自筆証書遺言や公正証書遺言のケースとほぼ同じです。

(3)公正証書遺言

公正証書遺言が無効になることはほとんどありません。極稀に無効になるケースとして以下の場合が挙げられます。

・証人になれない人が立ち会って作成された遺言書

・遺言作成者本人に遺言能力がなかった

これらの場合は、遺言書が無効になることがあるので、作成する時は気をつけましょう。

7 遺言書の時効

遺言書には時効がありません。遺言書は、遺言作成者の意思表示であるため、遺言書の作成後何年経過しようとも、その効力は消滅することはないと考えられているからです。

実際に、家族が遺言書の存在を知らず、遺言作成者の死後、長期間経過して遺言書が発見されることや、遺産分割終了後に発見されることがあります。そのような場合でも、遺言書には時効がないため、遺言の内容は原則として有効になります。そのため、分割内容と遺言内容が異なっている場合、一度分割内容を白紙に戻し、遺言書に沿った形で再分割することが必要になります。もっとも、遺産分割は相続人全員の同意があれば、遺言内容と異なる遺産分割を行っていても、再分割を行う必要はありません。

相続人のうち1人でも分割内容に同意をしなければ、改めて相続人全員で分割協議をしなければなりません。しかし、遺産分割から10年以上などの長期間が経過している場合は、遺産の再分割が現実的に不可能なこともあります。

そのため、遺言書には時効がないとはいえ、遺言内容に沿った遺産分割を望む場合は、遺言書の存在が家族に知られるように準備しておいた方が良いでしょう。

8 遺言書を開封するときの注意点

ご家族が亡くなり、遺言書を発見してもすぐに開封してはいけません。なぜなら、遺言書の種類によって、開封の仕方が決められているからです。

(1)検認

ご自宅で遺言書が見つかった場合、それは自筆証書遺言か秘密証書遺言になります。この場合、遺言書を自宅で開封してはならず、家庭裁判所で検認をしなければなりません(民法1004条)。

検認とは、家庭裁判所に相続人が集まり、遺言書の形状、日付、署名、検認日の遺言書の内容などを明らかにする手続きのことです。これは、相続人に対して、遺言の存在とその内容を知らせること、遺言書の偽造・変造などを防止することを目的として設けられている制度です。検認は家庭裁判所に申立てる必要があります。

(2)検認をしなかった場合

検認前に、遺言書を開封してしまうと、罰金の対象になります。法律上は5万円以下の過料が課されます(民法1005条)。実際には、検認の制度を知らずに遺言書を開封することは多くあるため、過料が課されることは少ないようです。

しかし、過料が課されないことが多いといえども、検認をせずに遺言書を開封してしまうことは、遺言書の偽造を疑われるなど後々のトラブルの原因になりかねません。そのため、遺言書を見つけても、自分たちで開封せずに、家庭裁判所に検認の申立てを行いましょう。

(3)検認が不要な場合

遺言書が公正証書遺言であった場合は、検認の必要はありません。家庭裁判所に申立てを行うことなく、遺言書を開封することができます。

9 まとめ

本記事では、遺言書の基本について確認していきました。遺言書は記載内容について細かく規定されているため、作成を希望する場合は、弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。

記事の監修者:弁護士 川島孝之

アロウズ法律事務所の代表弁護士川島孝之です。
これまで多くの相続事件を手掛けてきました。職人としての腕と、サービス業としての親身な対応を最高水準で両立させることをモットーとしています。