相続に関する制度の1つに寄与分というものがあります。この言葉を聞いたことはあっても、その内容についてはよく知らない方がほとんどだと思います。
本記事では、寄与分について弁護士が説明します。
1 寄与分とは
寄与分とは、被相続人(亡くなった人)の財産の維持や増加に特別の寄与をした相続人や親族が、本来の法定相続分よりも多くの財産を相続することができる制度のことです。これは、相続人間の公平を図ることを目的としています。
2 寄与分の要件
寄与分を主張するためには、以下の要件を満たす必要があります(民法904条の2第1項)。
⑴ 相続人である
寄与分を認められるのは相続人のみです。相続人以外の人物は寄与分を主張することができません。ただし、相続人でなくても一定の範囲の親族であれば、特別寄与料が認められる場合があります。詳しくは、後述の「5」をご参照ください。
⑵ 特別の寄与がある
被相続人に対する「特別の寄与」が必要になります。特別の寄与とは、「通常期待されるような程度を超える貢献」のことだと考えられています。夫婦の協力扶助義務(民法752条)や親族の扶養義務(民法877条)を超える範囲の貢献が必要です。家事労働や病気の療養看護程度ではこれに当たらないとされています。
実際には、夫婦や親族によって生活状況は様々なので何が特別の寄与に当たるかは、個別の事情によって判断されます。
⑶ 相続財産が維持または増加した
特別の寄与により、相続財産の減少や負債の増加が阻止された、または、相続財産の増加や負債の減少がもたらされたことが必要です。あくまで財産に対する貢献だけが評価されます。精神的な貢献は評価されません。
また、相続財産の維持または増加は、相続開始の時点(被相続人の死亡時)に認められる必要があります。相続発生後に貢献したとしても、寄与分は認められません。
寄与分を主張する際は以上の要件を満たしているか確認しましょう。
3 寄与分の類型
寄与分として認められる行為は、具体的には以下のように分類されます。
⑴ 家事従事型(労務提供型)
典型的には、夫婦や親子で農業や個人商店などの自営業を行っていた場合のことです。この場合において、寄与分の主張をする際は以下の要件を満たす必要があるとされています。
① 家事労働に対する対価の有無
家事労働に対して相応の対価が全く支払われていなかった、または対価の支払いはされていたものの労働に見合わない低額であったことが必要です。労働に対して相応の対価が支払われていた場合に寄与分を認めることは、その労働を二重に考慮することになるので不当とされています。
② 家事労働期間
家事労働をしていた期間が一定期間に及んでいることが必要です。一定期間とはどの程度なのかは個別の事情により判断されるので一概には言えませんが、数年以上である場合が多いです。
③ 労力負担の程度
労力負担がある程度重いものであることが必要です。負担の軽重は、各自の事情を考慮して判断されますが、著しく負担が軽いと言えるような場合は特別の寄与とは判断されません。
⑵ 金銭等出資型
相続人が、被相続人の事業に対して金銭を出資した場合がこれに当たります。この場合、相続人の支出が明確であるため、遺産の維持または増加に貢献しているといえるならば、寄与分は認められることがほとんどです。
ただし、単に事業資金を貸し付けた場合は、貸し付けた相続人は、貸付金の返済請求権を持っているため、寄与分を主張する必要性はあまりありません。
⑶ 療養看護型
典型的には、病気や障害の被相続人のお世話をしていた場合のことです。被相続人の療養看護を相続人が行ったことで、看護費用の支出を免れ、財産の維持に貢献した場合が対象になります。
⑷ その他
寄与分の類型は、上記の3つに限定されているわけではありません。被相続人の財産管理を行っていた場合や、被相続人を長年扶養していた場合などでも、寄与分を主張できる可能性があります。自分の被相続人に対する行為が寄与分として認められるのか気になる場合は、弁護士に相談しましょう。
4 特別寄与料
特別寄与料とは、相続人でなくても請求することができる寄与分のことを言います(民法1050条1項)。これは、2019年7月1日施行の改正民法により新たに設けられました。
5 特別寄与料の要件
特別寄与料を主張するためには、以下の要件を満たす必要があります。
⑴ 被相続人の親族であること
被相続人の親族である必要があります。親族とは、6親等以内の血族、配偶者、3親等内の姻族のことを指します(民法725)。被相続人の子の配偶者(例えば、長男の嫁)などがこれに当たります。相続人である必要はありません。ただし、相続放棄をした者、相続欠格事由がある者は対象外になります。
⑵ 被相続人に対して無償で療養看護またはその他の労務の提供をしたこと
特別寄与料の場合、療養看護またはその他の労務の提供のみが対象です。金銭支出は含まれないことに注意しましょう。また、これらの行為が無償で行われていたことが必要です。
⑶ 特別の寄与があること
寄与分の場合と同様に「特別の寄与」が必要です。
⑷ 相続財産が維持又は増加したこと
寄与分の場合と同様に相続財産が維持又は増加したことが必要です。
5 他の相続制度との兼ね合い
相続には寄与分や特別寄与料の他にも、遺言や遺贈、遺留分、特別受益などの制度が設けられています。それらの制度が寄与分に影響することがあります。以下では、具体的な影響について見ていきます。
⑴ 遺言
遺言が残されている場合、寄与分の主張ができるか否かは遺言の内容によって異なります。
① 相続割合が指定されている場合
遺言において相続割合が指定されている場合があります。例えば、遺言書に「遺産は配偶者に2分の1、子2人にそれぞれ4分の1ずつ相続させる」と書かれていたときがこれに当たります。この場合、具体的にどの財産を誰に相続させるのかは指定されていないので、相続人間で話し合って決める必要があります。話し合いにおいて、指定相続分は寄与分と特別受益によって修正することができます。つまり、寄与分の主張をすることが可能です。
② 特定の財産を相続させると指定されている場合
遺言において特定の財産を特定の相続人に相続させることを指定している場合があります。例えば、「家は配偶者に相続させる」と指定されているときなどがこれに当たります。この場合、全遺産について指定されているのか、一部の遺産のみ指定されているのかによって異なります。
ⅰ 全遺産について指定されている場合
原則として、特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がある場合、その指定に従って相続を行います。全財産について指定されている場合、相続人間で遺産分割協議をすることなく、遺言の通りに相続が行われるため、寄与分の主張はできないとされています。
ⅱ 一部の財産のみ指定されている場合
一部の財産のみ相続方法が指定されている場合は、残りの指定されていない遺産について相続人間で話し合う必要はあります。そのため寄与分の主張はできるとされています。
⑵ 遺贈
遺贈とは、遺言により遺産の全部又は一部を無償で譲ることです。相続人、相続人以外の者のいずれに対しても行うことができます。
寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない(民法904条の2第3項)とされています。つまり、寄与分よりも遺贈が優先されることになります。以下、具体例で説明します。
相続財産5000万円
相続人配偶者、子A,B
遺言「配偶者に4000万円遺贈する」
子A2000万円の寄与分を主張
この場合、5000万円(相続財産)-4000万円(遺贈)=1000万円(残額)となり、子Aの寄与分は1000万円を超えることはできません。
⑶ 遺留分
遺留分とは、一定の相続人に対して認められている最低限の相続分のことです。遺留分を侵害された場合、侵害した者に対して遺留分侵害請求(遺留分減殺請求)を行うことができます。
寄与分の金額が大きくなると、他の相続人の遺留分を侵害してしまうこともあります。しかし、寄与分は遺留分に優先するため、他の相続人は遺留分侵害請求をすることはできないと考えられています。
⑷ 特別受益
特別受益とは、相続人が被相続人から受け取った利益のことを言います。生前贈与、遺贈、死因贈与がこれに当たり、特別受益を受け取った相続人のことを特別受益者と呼びます。
寄与分が認められるかは、被相続人に寄与した人と特別受益者が同一人物であるか否かで異なります。
①寄与した者と特別受益者が同一人物である場合
被相続人に寄与した者と特別受益者が同一人物であり、寄与に対する実質的な対価として特別受益を受けていた場合は、寄与分は認められないとされています。すでに寄与分は支払われているとみなされるからです。
②寄与した者と特別受益者が別人である場合
被相続人に寄与した者と特別受益者が別人である場合、寄与分を主張することができます。ただし、特別受益の額が大きく、寄与分が少なくなってしまったからといって、寄与分が侵害されたという主張はできません。特別受益者に対して特別受益財産の返還を求めることはできないことに注意しましょう。
6 寄与分の請求方法
寄与分の請求方法には3つの段階があります。
⑴話し合い
まず、相続人同士で話し合いを行います。遺産分割協議では、各相続人の相続分や
どの相続財産を相続するかを決めます。このときに寄与分についても主張しましょ
う。主張しなければ、考慮されることはありません。
⑵調停
話し合いで合意が成立しなかった場合、調停の申立をします。調停では、調停委員
を交えて遺産分割を行います。これにより話し合いが進む可能性はありますが、裁判
所に出向く必要があるなどデメリットもあります。弁護士に相談しましょう。
⑶審判
調停でも合意が成立しなかった場合、審判の申立を行います。審判では、裁判所が
寄与分を含めて遺産分割内容を最終的に決定します。審判では、法律に基づいた適切
な主張が求められるため、弁護士に相談しましょう。
7 おわりに
相続はとても難しい問題が多く、解決までに長期間かかることも多いです。自分で解決
しようとせず、必ず弁護士に相談することをお勧めします。
記事の監修者:弁護士 川島孝之
アロウズ法律事務所の代表弁護士川島孝之です。
これまで多くの相続事件を手掛けてきました。職人としての腕と、サービス業としての親身な対応を最高水準で両立させることをモットーとしています。